サン・クレメンテは、カスティージャ・ラ・マンチャ州クエンカ県の南西部にあり、マドリードからは車で約2時間で行ける。乾いたベージュ色の大地の中のサン・クレメンテは、小さな町だが歴史のある町である。
平たい台地には、青々した葡萄とオリーブの木がぽつぽつと茂り、ミゲル・デ・セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』の路には、いくつもの大きな風車が見える。この地方の気候は、夏はとても暑く冬の寒さも厳しい。素朴だが風土に力強さを感じる。
個性豊かなサン・クレメンテは、まるで大地の中の宝石のようだ。アンティークな建物や店が並び、町の中心にあるマジョール広場は、市民のくつろぎの場として利用されている。
広場のシンボルともいえるグラフィック作品美術館は、古い昔、カルロス1世が妻のポルトガルのイザベル王女に与えた別荘であった。天辺には美しい紋章が飾られていて、16世紀のスペイン黄金時代の思い出が残っている。
広場の側にあるサンティアゴ教区教会、そしてイエズス会の教会の鐘の音が美しく町に響く。中に入ると、ひやりとした壁と教会の静けさが心地良い。サン・クレメンテの人々も、他のスペイン人と同じ様に信仰深い。町には聖処女ルス伝説があり、毎年5月の末頃に聖地巡礼が行われる。町の外れに聖処女ルスを奉った小さな教会があり、聖地であるその教会まで町中の人々が一体となり巡礼する。
聖処女ルスは教会の裏の洞窟で羊飼いによって発見され、イスラムの勢いの強かった当時からクリスチャンの聖母として町と人々を守り続けている。この巡礼は1619年から続けられている。
サン・クレメンテに流れるルス川には、1世紀後半~2世紀前半に造られたローマ橋がある。大きな沢山の石で造られたこの古い橋を、どれだけ多くの人々が渡っただろうか。ルス川を渡り町へ入ると、1908年に建設された闘牛場がある。町の中心部には、1426年に建てられた塔がひっそりと立っている。琥珀色の石造りのこの塔は、中世の時代の監視塔であった。